親がいなくなった家で始まること02
親の思い出の蓋を開ける

上大岡トメさんの連載「親がいなくなった家で始まること」の第2回です。

今回は、実家の片付けのなかで見つかった、母親の思い出の品々のお話。
思い出の品を整理するとき、何を基準にすればいい? トメさんらしい視点で綴っていただきました。

実家のお金の管理は、母がメインでやっていた。家事も家計も担当する専業主婦。だからか、母は父よりも現実を見ていた気がする。
父は最後までホームの入居に難色を示していたが(心身ともに危機的状況だったのに)、母は早くからホームの見学に行っていたし、「ホームに入った方が安心」と言っていた。

ホームに面会に行った時のこと。
動くにも介助が必要で、認知力も落ちてきた母は気弱になったのか、
「私たちが死んだら、荷物もひっくるめて家ごと処分していいから」
とうつろな表情で、投げやりに言った。
ところが次の瞬間、
「あ、待って」
母の顔は、正気に戻っている。

「2階のタンスの上の引き戸の中に、貴金属が入っているから!!」
「食器棚のキリコのグラスは、処分しないで!高かったんだから」

聞いといてよかった。
この情報は、後々実家の荷物を処分するときに、大いに役立つのである(その話はまたの機会に)。

日を改めて、京都のアネと2階のタンスの中身の確認をすることにした。
タンスは両親の寝室にあって、いわゆる婚礼家具。二人が結婚してから、ずーっと二人の生活を見てきた。この中をちゃんと見るのは、たぶん、姉妹にとって初めてである。

タンスの下部には引き出しが数段あって、そこに洋服が入る。中段は着物が入る仕様。
そして問題の上部には何段か棚があって、小物を収納できるようになっている。
その部分の引き戸を開けると、微かな樟脳(ショウノウ)の匂い。なんだか懐かしい。

アネとビニールの手袋をはめた手で、中身を畳の上に並べていく。
中には母のアクセサリーや父のカフスボタン。また二人で行った海外旅行に関する書類やパスポート、旅行用雑貨、ハイブランドの香水の瓶。
二人は定期的に旅行に行っていたので、旅好きなんだな、と私は思っていた。
ところがアネによると、母は環境の変化が苦手で、旅行好きの父に気乗りしないまま付き合っていたらしい。でも旅行雑貨が多く残っているから、思い出は大切にしていたんだな。

畳の上に並べたものを「とっておくもの」、「処分するもの」、「今は判断がつかないから保留」にわけ、付箋を貼っていく。今日はとりあえず中身の確認だけなので、そのまま元の棚に戻す。

アネと勤めて事務的に作業をしつつ(でないと進まないから)、
「お母さんが元気なうちに、一緒に確認できてればよかったね」
とつい口に出る。そうしたら、思い出をすくいとってあげることもできたのかもしれない。

いやいや。戯言だ。これまでを振り返れば、そんな余裕もなかった。食器棚のカトラリーの整理に立ち会うだけでも、母は相当しんどそうだったもの。
判断することは、高齢者にとっては負荷が大きいのだ。

「タンスの中身をちゃんと見たよ」、と母に伝えたら安心するだろう。母の存命中にタンスを整理できただけで、よし!とする。