上大岡トメさんの連載エッセイ「こうして遠距離介護は始まった」その8です。
前回は、お母様の高齢者施設を見学したときの「決め手」について描かれました。(前回のお話)
今回は、トメさんの遠距離介護が幕を閉じるときのお話。




その日のことは、これからもきっと忘れないでしょう。
父母が、約60年住んだ家を離れる日。施設に入居します。
母は施設入居には前向きでした。でも父は施設入居にはとっても難色を示していたので、どうやって気分良く施設まで送るかがカギでした。
そこで考えたのが、車2台分乗作戦。
1台目はタクシー。ケアマネさんに付き添ってもらって父が乗る。父はケアマネさんを信頼していて、言うことも聞いていた。
ケアマネさんにはもし父が拒否したら、なんとか説得してください、とお願いをした。
2台目にはお隣のお兄さん(と言っても70代)が、車を出してくれることに。母と私が乗車。施設までは車で約40分の道のりです。
ピリピリした朝を迎えました。ケアマネさんも、少々緊張した面持ちで、やって来ました。
荷物はとりあえずの身の回りのものと秋冬の衣類、毛布など。思ったよりコンパクトで、タクシーのトランクに全て収まりました。
引越しというよりは、ちょっとお泊まりに行く、という感じです。
小雨が降っていました。
タクシーが到着し外に出ると、母と仲のよかった近所の方々が、お見送りに来てくれました。
ああ、良好な近所づきあいだったんだなあ、とありがたく思う。
母はお別れを惜しむ、というよりもなんだか照れくさそうでした。
父のタクシーが出発し、しばらくして母と私の車も後を追う。
母は久しぶりの外出だったからか、車窓から流れる景色を見ながら終始ご機嫌でした。
渋滞もなく快適なドライブで、施設の駐車場に到着。父はもう施設の中に入っているようだ。
施設に着くと、すぐスタッフの方々が迎えに来て、手慣れた様子で母を車椅子に乗せ、ささーっと母もろとも施設の中に吸い込まれていきました。
2人はプロの手に渡ったのだ。
と思った瞬間、背中がすごく軽くなった。
ケアマネさんによると、父は車の中で終始ご機嫌で、「昔、ここのゴルフの打ちっぱなしに来た」とか「この道はどこどこにつながっている」など、饒舌だったそう。
私はそのまま実家に帰り、まずは1、2階とも、ほとんど閉められてた雨戸を開け、窓を全開にして家の中に風を通した。ああ、この家ってこんなに明るかったよね、とコドモの頃を思い出す。
介護中はヘルパーさんをはじめ、一日にいろんな人が出入りしていたこの家。でも今はしん!と静まり返っています。
こうしてアネと私の遠距離介護は、幕を閉じました。





