ー 第二回:『団地のふたり』のようなアラフィフ世代の暮らし方 ー
藤野千夜さんの小説『団地のふたり』は、団地に住む50代女性の交流を描いた作品で、小林聡美さん、小泉今日子さん主演のテレビドラマになったこともあり、同世代の独身女性を中心に大きな話題になった。

なっちゃんこと桜井奈津子は、一時は成功したイラストレーターだったけれど、最近はあまり仕事がない。ノエチこと太田野枝は大学の非常勤講師をしていて、色々あって正規の教員にはなれないままだ。
なっちゃんは恋人との事実婚を解消し、ノエチは離婚して、今は二人とも実家である団地に住んでいる。お互いの夢も傷も知っている幼馴染が、スープの冷めない距離に住み、穏やかな時間を共有できるのは、特に筆者のような中年の独身女性にとっては理想であり、憧れでさえある。

作者の藤野さん自身も、団地で一人暮らしをしている。
「団地には、子どもの頃に住んでいたことがあって、小説の取材のために50年ぶりくらいに行ってみたら、そのまんま残っていたんです。それで、もう一度団地に住むのもいいかなと思いました。
実際に住んでみたら、超快適です。駅からバスに乗らなければいけない立地ではありますが、私には通勤もありませんし。
『団地メシ!』という小説にも書きましたが、敷地内にスーパーもあるし、おいしい飲食店も色々あって、とても暮らしやすいんです」

同じ団地ではないけれど、なっちゃんのモデルであり親友でマネージャーのIさんが近所に住んでいて、しょっちゅうお互いの家を行き来しては一緒にご飯を食べているのだそう。
「コロナ禍には、二人でベランダに並んでご飯を食べていました」とのことで、テレビドラマでなっちゃんとノエチがランタンを囲んで食事していたシーンを彷彿とする。
現在一人暮らしということで、寂しさはないかと聞いてみると、「私にはそれが全然わからなくて」と言う。
「そもそもオタク系なので、家で一人で本を読んでいるとか、そういうことが幸せなタイプなんです。
以前アンケートで、『作家になって最大の幸せは?』と聞かれた時にも、『雨の日に家にいること』と答えていました」
そう聞いて、筆者は、藤野さんの自伝的な小説『編集ども集まれ!』の一節を思い出した。
小説家になった主人公が、取材記者に「純文学の賞なんかもらって、将来、不安じゃないですか?」と問われ、こう考える。
−−将来、不安、とじっくり考え、結局それも答えに詰まった。小説を書いて生活したい、とは思っていたけれど、それで贅沢したいとか、幸せになりたいとかは考えていなかった。
いい小説を書けたら、それでいいじゃないかとも思っていた−−
いわゆる世間一般でいう「幸せ」にとらわれなくても、自分が守りたい生活、やりたい何かを持っていたら、孤独を感じる暇もないだろうし、将来に不安や恐怖を感じることもないのかもしれない。
最近の暮らしの中でのブームを聞いてみたら、「懐かしのゲームをやること」という答えが返ってきた。
「古い荷物を片づけていたら、ゲーム機が出てきたんです。ドリームキャストとかメガドライブとかスーパーファミコンとか。それをテレビに繋げてみたらまだ使えたんですね。
そうしたら、Iさんが家に帰るとき、『ちょっとゲームやろうか』とか言うのでやるようになりました。以前は一日中やっていたけど、もう体力的にね、帰る前に30分だけにしています」
「子どもみたいかもしれないけど」と照れたように笑う藤野さんだったが、そんなたわいもないことをするのが本来の友だちとづき合いなんだな、と再認識させられた。
『団地のふたり』が楽しそうなのも、たわいもないことを共有しているからなんだな、と。
「もともとがふざけているのかもしれないけど、あんまりなんでも真剣に真面目に捉えすぎなくてもいいと思うんです」
アラフィフになって、がんばってきた人生を振り返ると、虚しくなったり悔しくなったりすることもあるし、介護や自分の老後を思うと将来が不安になることもある。
けれど、考えすぎて心を重たくするくらいなら、肩の力を抜いて友だちとゲームに興じる方がよっぽど「幸せ」なんだと思った。
※藤野千夜さんのインタビュー前編はこちら
▶︎ 「団地のふたり」著者・藤野千夜さんに聞く|ケア世代が“楽しく生きるため”のヒント vol.1
記事の中にでてきた、藤野さんの書籍を
オヤトリドリ編集部からご紹介!
『編集ども集まれ!』
漫画編集部で過ごした日々と、作家としての今。
藤野千夜さん自身の歩みを重ねて描く、自伝的小説。

『団地メシ!』
懐かしい団地を歩きながら、世代の違うふたりが向き合う時間。
団地の日常やおいしいごはんが、人生の温度をやさしく伝える物語。

『団地のふたり』
団地で育ち、保育園からの幼なじみのふたり。
中年を迎えた今も続く、ささやかな日常の物語。

うまくいかない日や、少し立ち止まりたくなる時に。
団地の暮らしや働く日常を通して、「そのままでいい」とそっと伝えてくれる3冊です。
今しんどい人にこそ、オヤトリドリ編集部としておすすめしたい作品です。





