この回では、家族に頼らずに老後と死を迎える主に高齢者の法務問題に携わっており、現在は、「家族に頼らないおひとりさま」が、いつどんな状況になってもその尊厳が守られるような仕組みを提供している株式会社OAGライフサポート、代表取締役の黒澤史津乃さんに、今の日本で起きている、老後や介護にまつわる家族の問題について事例を交えながらわかりやすく綴っていただいてます。
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第3回 前編【山下真知さん(63)が倒れる前に備えておくべきだったこと】
【家族ありきを前提としない老後とその先への備え方】
親の介護のことや親からの経済的支援のことで、お互いにもやもやした気持ちを抱えてはいたものの、亡くなった母親の相続のことで決定的に絶縁関係となってしまった山下真知さん(63)と金子美月さん(60)の姉妹。もう交わることはないだろうと思っていたのに。
姉の真知さんがくも膜下出血で倒れてしまってからは、唯一の「家族」である妹の美月さんが、身体的にも介護が必要で意識障害も残る真知さんの世話をしなければなりませんでした。
万が一のときや年老いたときに、家族の世話になるつもりがない・迷惑は掛けられないという人が、真知さんのように想定外に家族に頼らざるを得なくなることを避けるためには、家族以外の「誰か」に対して、将来、自分自身に求められる意思決定の支援をしてもらうことを、契約により依頼しておかなければなりません。
将来、自分自身に求められる意思決定の支援を依頼するための契約とは、具体的にどんな内容が盛り込まれるのでしょうか。
まず、これから先の人生を、3つのフェーズに分けて考えていきましょう。そして、それぞれのフェーズにおいて、これまで家族に求められてきた役割や意思決定の支援にどのようなものがあるのかを、確認しておかなければなりません。
第1フェーズ:自立している現在から、病気にかかったり判断力が低下してくるフェーズ
自立期であっても、万が一の際の安否確認、生活状況把握、緊急連絡を受ける役割。
救急車への同乗、病院での手続き、入院時の身元引受、退院調整、退院後の生活環境整備、介護保険の利用手配、キーパーソンとしての役割、老人ホーム等施設入居時の身元引受、元気なときの本人の医療や生活に関する意思を関係者に伝達し、意思決定の支援を行う役割。
第2フェーズ:認知症の進行や脳の疾患、精神上の障害により、財産管理や重要な契約締結ができなくなるフェーズ
第1フェーズから第3フェーズの死に移行する前に、第2フェーズを経験する人としない人がいる。
家庭裁判所への申立てを経て、後見制度を利用することにより、後見人等が財産管理及び療養監護の役割を果たす。
第3フェーズ:亡くなった後のフェーズ
死亡の事実をいち早く知る役割、葬儀や納骨を施行する喪主の役割、その後の各種契約の終了手続き、関係者への死亡の通知、荷物処分手配などを行う役割。
それぞれのフェーズにおいて、これまで家族が担ってきた役割を家族でない人や団体が担うために、依頼する本人が契約能力のある元気なうちに、契約をしておかなければなりません。
第1フェーズに対応する委任契約、第2フェーズに対応する任意後見契約、そして第3フェーズに対応する死後事務委任契約という3つの契約が整っていれば、急に何かあっても、家族に頼ることなく、契約相手として依頼されていた人や団体が、権限を持って本人の意思決定の支援、生活環境の整備の支援、認知症になったときの後見人としての役割、死亡後の葬儀・納骨や事務手続きなどを行うことが可能となります。
第1フェーズに対応する委任契約では、まだ自立しているときの安否確認を引き受け、異常を察知した場合には、病院、介護関係者、高齢者施設等に対して本人側に立った意思決定支援の役割を引き受けます。第2フェーズと第3フェーズの契約を併せて締結することにより、入院や入居の際の身元引受保証を行うことも可能となります。
第2フェーズに対応する任意後見契約は、ひとことで言えば、将来の後見人を掛け捨てで事前予約しておく契約です。
第2フェーズを通過せずに亡くなれば、この予約の契約は効力が一切発生しないまま終了してしまう一方、将来、認知症の進行でお金の管理が難しくなったときには、契約相手が家庭裁判所の手続きをすることにより、確実に後見人になってくれるというものです。
第3フェーズに対応する死後事務委任契約は、葬儀や納骨の際に喪主として取りまとめる役割や、賃貸住宅や高齢者施設、年金、健康保険、公共料金、携帯電話その他各種契約の死亡による終了手続きや精算を行うことを依頼する契約です。
さらに、これらの3つの契約と合わせて、死亡後に残った財産(金融資産や不動産)を希望通りに配分するための遺言を作成しておけば、人生の幕引きを家族まかせの他人事ではなく、自分事としてデザインしておくことができます。
「家族」というだけで、どんな感情や事情があろうとも、周囲からは「家族なんだから面倒を見るのが当たり前」と思われてしまいますし、家族自身もそうした価値観・美学に縛られてしまいがちです。
家族のカタチが多様化した今、家族がいる人もいない人も、自分自身で意思決定を完結できなくなる時期が必ず訪れることを自覚した上で、まずはその場合の意思決定を誰に支援してもらうのかを真剣に考え、家族以外の人や団体に託すのであれば、早いうちに備えのための契約を整えておくことをお勧めします。
親の世話についても、子供が見なければという固定観念にとらわれて、介護離職に追い込まれたり、精神的に不安定になってしまったりする事例も頻発しています。
「家族だけが介護や世話の担い手ではない」という新しい価値観を醸成し、親にもこうした契約を利用してもらうことも一つの選択肢となっていくことが求められる時代となりました。
こうした契約を引受ける団体は、一般的には「身元保証等高齢者サポート事業者」と呼ばれ、現在のところ監督官庁も業界団体もなく、どの事業者を選択すればよいかの判断が難しい状況です。
しかし、2023年にこの問題が国の政策課題として取り上げられたことにより、今年度中に厚生労働省により業界向けのガイドラインが作成される見込みです。
今回、この「家族に頼らない老後を考える」の連載を執筆いただいた黒澤さんが代表を務める、株式会社OAGライフサポートでは、家族に頼れない・頼りたくない・頼らない方々が、自分自身の人生の幕引きについて、しっかりと学び考えた上で、ご自身の「尊厳」として自己決定していただき、その大切な「尊厳」を契約によって託していただくという新しい仕組みを提供しています。
たとえば、緊急事態を察知するために、あなたの安否確認と生活状況把握を行うサービスを行っています。生活状況把握につとめ、緊急通報装置をご利用いただくことで、孤独死を防ぐとともに、万が一、自宅で急なご病気によりご逝去してしまったときも、いち早く異常を察知して早期に発見することが可能になります。
また、入院や高齢者施設入居のときに求められる身元保証人をお引き受けするサービス。頼れる家族が誰もいなくても、緊急事態にもスムーズに対応することができます。延命治療はしてほしくない等のご希望も、医療関係者にあなたの意思としてしっかり伝達していきます。
老後のことに漠然とした不安がある方や、終活について何をどうやって始めたらよいのか分からない方もサポートしているので、お気軽に相談してみてください。
家族がいても、いなくても、ご自身の老後と、さらにその先について考えてみませんか?