母は料理上手でした。
専業主婦だったこともあり、手間を惜しまなかった。
「今日の晩ごはん、何かなあ」
3つ上の姉も私も、子どもの頃から晩ごはんは大きな楽しみでした。
会社員だった父も仕事でどんなに帰りが遅くなっても、外食せず家に帰って母の作った料理を食べるほど。たまに帰省する孫たちのリクエストも、片っ端からテーブルに並べてくれました。
でもそんな母も、数年前からだんだん立ち続けて料理をするのがしんどくなってきました。
それと同時に、キッチンの床に調理器具や瓶に入った調味料が直接置かれるように。
聞くと「重くて片付けられない」と言う。
確かに、引き出しは中に物がぎっちり詰まって重く引き出しづらい。力がどんどん落ちている母。
キッチンのシンク上の棚に調理器具をしまうのは、一歩間違うと落下事故が起きそう。そして床にモノが置いてあると、つまずいて転倒してしまう危険もある。
これはまずい。
ということで、キッチンの収納を片付けることにしました。
まずは、引き出し、シンクの上下にある棚の中身を全部出してみた。出てくる、出てくる。この棚は、どこかのトランクルームに通じているのでは、というくらい。
シンク下の収納には、よく使う調理器具やちょっと重い調味量を優先して入れることにした。それも出し入れしやすいように、余裕をもって。
そのために、「もう使わないよな」というものを母監修の元、大処分することにしました。
そして以下のルールを決めた。
・一つの目的のモノは一つ。例)フライ返しは一つ。小さいフライパンは一つ。
・数十年使っていないお菓子作りの道具は処分。
・調理器具は、使用頻度が多いものだけを厳選。圧力鍋や大型蒸し器も重くてもう使えないので処分。
・カトラリーも、各種5本ずつ(どれだけあったか)。
・空き瓶、密閉容器も日頃使う数だけ。
ついでに食器も整理。ダイニングに立派な木製の食器棚があって、その中には客用の食器が入っている。日常使いの食器はキッチンの簡易な食器棚だけど、こちらも年季の入ったものがぎっちりと詰まっている。奥のものは、テーブルに乗らなくなってから久しい。
この棚もダイニングの食器棚も、私たちが家にいた4人家族のまま、来客が多かった頃のままアップデートされず時間が止まっているのです。
「お客さん用でも、お父さんとお母さんが好きな食器を使えばいいよ」
と、年季の入ったものは全て処分。
客用の中から母の好きな食器を、軽量で洗いやすいモノを選んで、日常使い食器チームに合流。そしてこちらも出し入れしやすいように、間隔をあけて棚の手前に収納する。
こうやって書くと作業が非常にサクサク進んだように見えるけど、実際はそうではない。
山口から何回か通って、のべ丸4日くらいはかかっています。片付けるという物理的にエネルギーを消耗することは予想していたけど、1番意外だったことは必要か不必要の判断するのには、高齢者にとっては結構なエネルギーがいるってこと。
母の判断力のエネルギーは、最初の食器棚の引き出し一つ分で使い切ってしまったのだ。
それに気がついてからは「ここは母に聞いたほうがいいかな」とピンポイント以外は、ほぼ、私の独断で推し進めた。母監修での片付けは、さっさと諦めました。
キレイに片付いて使うもの出し入れもしやすくなったキッチンを見て、母はとても喜びました。洗面所も片付けよう、と言い出す。整理された空間を見ると、片付けのモチベーションは一瞬上がるのです。シンク上の棚の奥に何が詰まっていたかなど、とっくに忘れているらしい。
年を重ねると、どんどん判断力が落ちていく。片付けることも、何かと後回し。これは親だけでなく既に私も自覚していること。早いに越したことはない。
ただ時代に取り残された実家全体の片付けは、引越しを5回するぐらいのエネルギーがかかるのでは、と思っています。チャレンジしようと思わないことにした。
子どものできる場所だけを片付けていく。まずはよく使う目につく所から。
親のエネルギーが、まだ残っているうちに。親の安全のためにも。