オヤトリドリでは以前に、ご家族の介護で悩んでいること、心配なことについて募集させていただきました。今回は、いただいたお悩みの中で最も多かった“きょうだいに関するお悩み”について紹介させていただき、高齢者の介護と暮らしのアドバイザーであり、ご自身も介護をご経験されている浅井郁子さんにアドバイスを綴っていただきました。
・介護をきっかけにきょうだい間が悪くなるのはなぜ?
介護される親との関係に悩む話は多いですが、親を介護する子ども同士の、いわゆるきょうだい間の軋轢に悩む人もとても多いです。
最初に届いたお悩みメッセージもきょうだい間についてです。
このメッセージには、介護をきっかけに起こるきょうだい間の問題が集約されていると思います。仲の悪いきょうだいではなかったのに、親の介護をきっかけにして意見の食い違いが表面化し、断絶してしまいます。親が亡くなったらどうなるかと思うと今から不安で、ご自身の老後のあり方にまで影響されています。とても胸が痛みます。
普通に連絡を取り合ってきたきょうだいが、親の介護問題が起こったことで関係がこじれてしまうという話は本当に多く、介護を機に音信不通になってしまったきょうだいがいる人や、断絶が続いた結果、親の訃報を知らせても動かなかったきょうだいを持つ人もいます。
きょうだい間のお悩みについて他の方からもメッセージが届きました。
きょうだいは育った家を離れて独立し、別々の世帯をもち、別々の人生を歩んでいますね。20~30年経って親の介護問題が起こった頃には、きょうだいそれぞれの価値観は固まっています。意見の相違が起こるのは当然かもしれません。
また、親からの愛情やお金のかけられ方に不公平感があると、介護問題が起こったときに溜まっていた不満が一気に噴き出すことがあります。現在の生活に余裕がなさすぎて親への思いはあっても介護について考える余地がない人もいるでしょう。
きょうだいの関係がうまくいかなくなる理由はさまざまあるなか、“介護は大変なもの”というイメージが強いために、自分と自分の家族の生活が脅かされないよう防衛本能が働いて、きょうだいは協力相手どころか一番のたたかう相手になってしまうのです。
・介護問題の先にあるリスクを避けるために
それでも、親の介護が始まりそうになったら、きょうだいで早めに話し合えたほうがいいと筆者は思います。なぜなら、親の介護は看取りと相続まで一本線でつながっているからです。
筆者の経験を少しはさませてください。
実父(当時77歳)にもの忘れの症状が現れたときに、両親の老後の大切なお金が個人貸し付けや投資などで外部に流れていたことが発覚しました。父は他人の連帯保証人にもなっていました。
何も知らなった高齢の母はもちろん大ショックです。問題に向き合える状態ではなかったので、兄と私が対応せざるを得ません。放っておいたら自分たちに被害が及ぶかもしれなかったからです。
まず公証役場に相談に行きました。今後を見据えてきょうだいが父親と任意後見契約を結ぶことを勧められます。父の代わりに投資先や貸付先と交渉できる準備を整えるためです。その後、父は脳梗塞に倒れて失語症になり、その影響から認知症も進み、介護が必要な状態になりました。任意後見開始を家庭裁判所に申請して兄と私は正式に父の成年後見人になります。
こうやって事実だけを書くとスムーズに事が進んだように感じとられるかもしれませんが、悪化する父の認知症への対応や、お金の管理をする私たちへの父の抵抗に手こずる毎日です。そもそも「どうしてこんなことになったのか!」という憤懣やるかたない気持ちを家族みんながもっているので、「何で誰も気づかなかったの?」と責任をなすり合うこともしばしばあり、家族はぶつかっていました。
そういう状況ですが、トラブルがあと少しでも遅く発覚していたら、認知症が進んだ父に確認できないこともあったでしょうし、任意後見契約を結べない状態になっていたと思います。家族はバラバラになっていたかもしれません。
介護の先には親の終の棲家問題、看取り、相続・・・きょうだいが話し合う事柄は続きます。
きょうだい間がこじれ続けていたら、いつまでも相続できずに口座からお金を引き出せなかったり、ゴミ屋敷状態の実家が残ったままになったり、介護問題以上の深刻な事態にさいなまれる可能性も無きにしも非ず。そのようなリスクを避けるためにも、介護問題が浮上した段階できょうだいのコミュニケーションはやはり取れるようにしておいたほうが安全だと思います。
・自分の弱みを認めたらラクなった筆者の例
次のようなお悩みメッセージも届きました。
きょうだいの話し合いは難しいものです。話し合う機会を設けること自体難しいという人も多いことでしょう。
筆者の父は10年前に亡くなりました。現在90歳過ぎの母は健在で、筆者と同居しています。ですから私が母の支援をほぼ請け負っています。日々いろんなことが起こりますが、母親の心配事について兄と話し合うことができていかどうかと言えば五分五分という感じです。
ここからはあくまでも筆者の感じ方の話になりますのでご承知ください。
私の兄には家族がいますが私はシングルです。人生の選択に後悔はありませんが、両親の介護を経験してみると、自分の老後をリアルに思い浮かべるようになるものです。シングルであることに多少不安を持つようになったのです。
例えば、母が入院したとき病院側は娘の私を頼りにします。わかりやすく言うと“親には私がいるけれども私には私がいない!”という不安をもつようになったのです。民生委員の活動をしていますので、いざというときの家族の存在は否定できないことも身に染みています。
また、娘である私のほうが親には可愛がられてきたと思います。大学時代は下宿をさせてもらいましたからお金も使っているでしょう。そういう負い目が兄に対してないとは言えません。
介護をしていると、昔のことを思い出すものです。自分の人生を振り返り、自分の弱みのようなものを認めるようになりました。弱みを認めると人は素直になるのかもしれません。不思議と気が楽になったのです。兄に対して主張することが少なくなったように思います。
話を切り出す際は、「これからどうする?」とおおざっぱな感じで話をしないで、今親に起こっている具体的な心配事を解決するにはどうしたらいいかという話を積み重ねたほうがいいでしょう。
話し合いをしないまま、きょうだいの誰かに負担が偏る介護が始まってしまうと、他のきょうだいに報告しなくなり、問題が起こっても相談しなくなりがちです。
介護は決して一人で抱えない。きょうだいそれぞれが何らかの役割を担っているからこそ、親の情報を共有できます。 そして家族だけで背負うこともしないで必ず最初から介護サービスを利用しましょう。今の介護は「プロと家族でチームを組んで行う」が原則です。
きょうだいの役割分担の例を少し紹介しますと、
・遠距離介護:介護に通う担当と交通費等の負担担当、ケアマネジャーとのやり取り担当とテレビ電話などでの見守りコミュニケーション担当など。
・同居や近居介護:昼間の世話担当と朝・夕の担当、平日担当と土日担当など。
・施設介護:金銭管理や施設とのやり取り担当と親が必要な物を届けるなどの面会担当など。
きょうだいの事情に応じて分担できるといいですね。
負担の重さの差はあれ、共にチームの一員という意識で介護に参加する工夫をぜひ探ってほしいと思います。
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