お悩みサロン:誰かとつながることで、自分は1人じゃないという感触を得てほしい

以前、オヤトリドリのインスタグラムにお悩みを書き込んでいただいた方にお話を、ライターの浅井さんと一緒に伺いました。ビデオ通話でどんなお話をしたか、浅井さんのお悩みサロン第三回目です。
漫画は、Sさんの悩んだきっかけのこと。

オヤトリドリの“お悩みサロン”に投稿してくださったSさんに、ビデオ通話をつないで直接お悩みを伺いました。

Sさんは、40代後半の女性です。独身で一人暮しをされていて医療関係にお勤めです。
親の介護は始まっていませんが、介護が必要になったらどうしよう!と思うエピソードが最近ありました。
離れて暮らしている70代の母親が室内で転倒して大腿骨を骨折し、入院したのです。

病院から連絡を受けて駆け付けたSさんは、ベッドに横たわる母親を見て「もしかしたらこのまま介護が始まってしまうの?」と不安を覚えたと言います。
でも今回は幸いなことに、母親は無事に退院されて介護認定も必要ない状態で家に戻ることができました。

ただ入院中に母親から「私、このまま寝たきりになるかもしれない」と言われたSさんは、
「本当にそうなった時はどうすればいいんだろう?」と考えるようになったのです。

「不安というよりも・・・寂しいんです」

長い間一人暮らしをしてきたことで「スケジュールの取り方が自分中心になっています」というSさん。

「だから何かが起こったときに時間の配分をうまくやっていく自信がないんです。
40代に入ってからは20~30代の頃に比べたら体調も万全ではないから、こんな状態で親の介護が始まったら、周囲の状況に翻弄されたまま身動きが取れなくなるという不安があります」

“身動きが取れなくなる”という言葉が気になります。

「今回、母が入院した病院は手続きが平日しかできなかったから、いつ仕事を休ませてもらい、どのタイミングでどの手続きをしなければならないかとか、病棟の看護師さんにあまり迷惑をかけたくないなどいろいろ考えてしまって。
母が働く職場にも連絡を入れなければならないし、一度にやることがたくさん起こると、遠方に住んでいる私はどう対処したらいいかすごく頭を悩ませてしまいました」

段取りで頭がいっぱいになったSさんは、ベッドに横たわる母親に向かって「何で階段から転んだの?」「どうしてもっと気をつけなかったの?」とつい言ってしまったそうです。
「母には肝心のいたわりの言葉をかけられませんでした」と気にされています。

Sさんは4人兄弟姉妹の長女で、姉妹の仲はいいそうです。

「今回は、入院中の母の面会を姉妹が交代で行くようにしました。でも妹たちと病院で会うこともなく、『大変だったね』と共感し合う会話もなく終わってしまったのです。
これからもっと厳しいことが起こったときに、これでは対応しきれないと感じたので、(長女の私が)もう少しうまく立ち回れるようにしないなといけません。
そのために、自分の気持ちの整理できる方法や、自分が拠り所になるものを作っておきたいと思うのです」

責任感の強いSさんの一面に接したように思いました。
親の介護が必要になったら、うまく対応できるかどうかの不安があるのですね?と聞くと、「不安というよりも・・・寂しいんですね」と言われました。

【筆者の経験談】最初の相談相手は母のケアマネジャー

Sさんの話を聞いていて筆者は自分が40代だった頃を思い出しました。独身で一人暮らし、仕事優先の生活環境が似ていたからです。

当時の私の不安は親に介護が必要になったら対処できるだろうか?という心配ではなく、これから老いていく親を受け止められるだろうか?という子どもっぽいものでした。
一人ぼっちになったらどうしよう?!を想像しすぎて眠れない日々もあったのです。

でも、そんな不安は現実に物事が起こったときに一掃します。
たまに会っていた父の“もの忘れ”が気になり始めた頃、「お父さんの様子が変なの」と母から電話が入ったのです。
高齢のため対応することが難しい母をサポートするために動き出したのが、私の介護の始まりでした。


最初に相談した相手は母のケアマネジャーです。
母はリウマチの後遺症があったので、既に要支援を受けており、地域包括支援センターの人が母のケアマネをしていました。
ケアマネと言っても“地域に住む話しやすいおばさん”という印象の人で「実は父が・・・」と打ち明けやすかったのはラッキーでした。

このケアマネさんが地域に認知症専門医がいることを教えてくれたのです。
「人気がある先生だから予約をとるのは難しいと聞くけど、とにかく電話してみたら?」という助言をくれたので、わらをもすがる気持ちで電話したところ、比較的早い日程で予約を入れることができました。

後に父が脳梗塞を起こして入院したときも、認知症の症状がひどいために転院先が見つからず困っていたら、母のケアマネさんは話を聞いて受け入れてもらえそうな病院情報をもたらしてくれました。
そこは自分で探していたら敬遠したであろう病院です。でも実際に預かってもらうと、父の症状は落ち着き、自宅に戻ることができたのです。

このような経験から「地域の信頼できる情報は、地域にしか落ちていない」ということを私は痛感したのです。地域の事情をよく知っていて、地域の最新情報を常にもっている介護の専門職の人と一人つながったことで他の専門職や専門機関につながっていけたのです。

“同じような悩みを語り合える仲間”という相談先をもとう

Sさんの話に戻りましょう。
「今の段階でどこに相談したらいいのかを知りたいのです」とSさんは言われます。

介護に関する相談先は
①専門的なことを相談できる専門職または専門機関
②同じような悩みを語り合える仲間 

の2タイプをもっておくといいと思います。

Sさんの場合は介護が始まっていないので、②の仲間を見つけることを勧めました。今ある寂しさを吐き出せる相手です。

「そうなんです。自分の思いを共有できる何かがほしい。
私は孤独感がどうしても出てくるので『そういう時はこうやっていこう!』と誰かに話して『そうだよね』と言い合えるようなコミュニティがあればいいなと思います」

以前、体調を崩されたことがあるSさんは、プライベートを充実させたほうがいいと考え、地域コミュニティとつながりをもったそうです。そこには当番がありましたが、後からキャンセルはしにくいからと自分から手をあげにくくなり、コミュニティから少し遠のきそうだと言います。

私は「まだ起こっていないことにあまり悩まないようにすることも大切だと思いますよ。いざ何かが起こったときは、嫌でも対応せざるを得なくなりますから、取り越し苦労的な悩みはひとまず脇に置いて、今の自分の生活を充実させることを忘れないようにしてほしいです」とアドバイスしました。

するとSさんは

「確かに母の入院もそうだったけど、何かが起こった時は一定期間対応しなくてはならないけど、いずれそこから抜け出すときもあるから、あまり考えすぎずにいろんな予定をこれからは入れてもいいかなと思いました。
お話を聞いていて、誰でもいろんなことに揺れ動く時期があることもわかったので、自分と同じような年齢の人たちとつながってもいいかな」

筆者は最近、近所の一人と偶然立ち話をしたのをきっかけにして、親の介護をしている同世代のグループができました。挨拶する程度の顔なじみの人たちでしたが、親の問題をみんな抱えているんだなと改めて思います。
Sさんがつながっている地域コミュニティの中にも、親の介護のことで悩んでいる人がいるのではないでしょうか。

職場で一人見つける、利用しているSNSで呟いてみる、友人に打ち明けてみるなど、自分の周囲を見直してみたら、共有し合える仲間が見つかるかもしれません。

親の介護問題は今や隠すようなテーマではありません。
誰かとつながることで、自分は1人じゃないという感触を得てほしい。これまでと違った景色がきっと見えてくると思うから。