高齢者施設は、名称がわかりづらい!
介護本を買ってみても、ホームの形態を説明する「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「特別養護老人ホーム」…といった文字の羅列に、心が萎えてしまったことはありませんか?
介護予備軍の私がタイプの違う高齢者施設を3つ見学して、それぞれの「違い」が見えてきた話を綴ります。
1.介護本をそっと閉じた過去
私は、親の衰えが気になり始めた頃に、介護本を一冊購入しました。けれども、冒頭に書いたような「文字の羅列」に心が萎えてしまい、その時は本をそっと閉じた過去があります。
そんな私が、高齢期に詳しいファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんと一緒に、高齢者施設を巡りました。
・3タイプの高齢者施設
今回、見学させて頂いたのは、石川県を拠点とする、「てまりグループ」(株式会社スパーテル)が経営する3タイプの高齢者施設です。
一つ目が、住宅型有料老人ホーム「ひなの家」。
二つ目が、小規模多機能ホーム「ひなの家 押野」。
三つ目が、住宅型有料老人ホーム「ひなの家ナーシング金沢末町」。
字面だけだと分かりづらいので、読み解くための「用語のポイントを3つ」を、お伝えします。
ポイント1 「住宅型」有料老人ホームとは?
文字通り住宅と同じ扱いの老人ホーム。「介護付き」有料老人ホームよりも費用相場が安い傾向にある。
ポイント2 小規模多機能ホームとは?
ざっくり言えば、「介護のサブスク」。2024年現時点では、請け負う施設がない地域や、施設があっても請負数がパンパンなことも多い。
ポイント3 医療依存度が高い方の対応施設
「ひなの家ナーシング金沢末町」は、「住宅型」有料老人ホームの中でも、医療依存度が高い方向けの施設です。
高齢者施設選びの基軸の一つが、「医療依存度」です。「医療依存度」については、下記を参照下さい。
「親御さんが、今後、生活をしていく上で、どんな医療的な処置・治療が必要なのか?」が、施設を選ぶ際の基軸となります。
親が、倒れた。初動は、どうする?ポイント4つ
・介護のプロにお話を伺う
「ひなの家」のお話を伺ったのは、株式会社スパーテルの北井智康(きたい・ともやす)さんです。
株式会社スパーテル 福祉事業部 施設サービス課 北井智康課長
お名刺には、介護支援専門員、認知症ケア専門士といった資格の記載もありました。お話の端々から、介護のプロとしての使命感を感じます。
2.安心できる終の棲家 住宅型有料老人ホーム「ひなの家」
「ひなの家」外観
・最期まで安心して暮らせるサポートとは?
北井
「ひなの家」は、2013年4月1日に開所した施設なので、10年以上お住まいの方もいます。
100歳越えが3人、99歳が1人、平均年齢88.3歳(取材時)で、介護度も必然的に高くなっています。
9割の方に認知症の傾向があり、入居者さん3人に対して、介護者が1人以上(約2.7対1くらい)で対応。高齢期でも「ごく当たり前の日常」を送れるようサポートをしています。
楢戸
– サポートには、どのようなものがありますか?
北井
それぞれの方で、必要なサポートは異なります。
入居者様の平均介護度は3.5くらいで、生活をする上で、小さなサポートが必要な方々です。 たとえば、排泄介護、移乗介護のニーズは高いですね。
夜中の排泄介助は、多い方で8~9回必要で、夜勤の介護士2人で対応をしています。
※移乗介護:介護対象者をベッドや車椅子などから移動させる際に必要な介護技術
認知症の人は、「行動を読むのが難しい」と言わていますが、職員がバタついていたり、イライラした雰囲気には、敏感に反応されます。
そういったことから考えると、決して全てのことがわからなくなっている訳ではないんです。
・理学療法士が生活の中に入って観察
北井
大切なことは、その方の生活をよく観察することです。
理学療法士が見立てた身体機能をもとに、医師、看護師、介護者の多職種連携で細かいカンファレンス(会議)をしています。
たとえば、部屋で転倒があった場合、何が問題だったのか?
もちろん、認知症というベースの課題はありますが、物の配置を変えたり、排泄を急がずに済むようトイレへの誘導をこまめにするなど、「こういう方法だったら、(その方がお持ちの機能の中で)できるよね」を探します。
カンファレンスをもとに、昼間の介護は、8~9人で回しています。
ホームに勤務する職員の介護福祉士の率は60%、事務職でも、排泄介護、移乗介助はできます。
・ケアマネージャーは「敢えて」外部連携
施設内に併設された「もものはな訪問介護」
北井
「ひなの家」は、「住宅型有料老人ホーム」ですから、ここが、その方のお住まいです。
施設内に訪問介護事業所を併設していて、8:30~17:30は、オンコールで訪問介護事業所のスタッフを呼ぶことができるという仕組みです。
ケアマネージャーは、「敢えて」外部の方にお願いしています。ケアマネージャーを外部の方にお願いすることで、「全てを抱え込まない」という風通しの良さを生み、信頼を頂いています。
楢戸
– 施設外の方との連携は多いのでしょうか?
北井
もちろんです。その方に必要なサポートを考えるにあたり、地域連携会議という会議があります。
会議に参加するのは、ケアマネージャー、医師、看護師、病院のソーシャルワーカー、そしてサービス提携者の我々です。地域と連携しながら、多様な職種の方とのパイプを作り、その方の生活を支えます。
・薬の管理は得意分野
楢戸
– こちらは、何でしょう?
北井
薬を管理するタペストリーです。社名であるスパーテルは、ドイツ語で「薬さじ」という意味で、当社の社長は薬剤師で、多くの薬局を経営しています。そんな経緯もあって、薬の管理は得意分野です。
朝、昼、夜、寝る前の4回分×28日分の薬が届いたら、毎回の服薬分を仕分けします。万一何かあった場合も、同じグループ内ですから、薬剤師がすぐに車でかけつけることができます。
・ここで、死にたい!
北井
開所当初は、お看取りは病院が多かったのですが、長くお住まいの方も増えてきて「ここで、死にたい」という方もいらっしゃいます。
今は、医師、看護婦と連携をとりながら、その人が、その人らしく人生を全うできる仕組みを構築しつつあります。
3.介護が必要な方の生活とは?
楢戸
– 介護が必要な方の生活を垣間見せて頂くことはできますか?
北井
はい、ご案内します。
【食事】
ミキサー食にも対応
食事は、ミキサー食にも対応をしています。
1ケ月分の入居費用が103,600円(※)という価格帯を維持するために朝と夜はチルドを利用し、昼は手作りしています。塩分やたんぱく質は、食事の量で調節しています。
※ ひなの家 入居時の費用より抜粋。
【入居一時金】0円【敷金】180,000円【1ケ月分の入居費用】103,600円(居室がAタイプの場合)
【トイレ】
車椅子利用でもOKのゆったりしたスペース
トイレは施設内に12個あり、二人にひとつある計算になります。
トイレスペースが室内にある施設もありますが、我々は居室とは別に独立したトイレにしています。お部屋にトイレの匂いがこもらないと好評です。
【浴室】
入浴を支える支援器具が充実
お風呂は、通常は週に2回ですが、希望があれば3回にすることも可能です。
個浴で、一人に対して、介護者は二人体制が基本です。
お風呂は建物の左右両方にありますが、それは麻痺の関係です。リフトやストレッチャーなどを使いながら、入用をサポートします。
4.見学をして、介護予備軍の私が考えたこと
オヤトリドリ世代は、「どっぷりと介護をしています」というよりも、
「親は、”まだ”元気だけれど、介護が気になり始めた」といった介護予備軍なのではないでしょうか?
何を隠そう、私自身が、”まだ”介護予備軍です。
けれども、介護が必要な方の生活を見学させて頂くと、「介護が必要」という言い方は、とても大雑把だと感じました。生活をしていく上で、介護が必要な場面は、人によって異なります。その場面を細かに捉えて、適切な手当てを、いかにしていくのか?
生活の支援がついた住宅型有料老人ホーム「ひなの家」の見学を通じて、少しだけそのイメージが持てた気がします。
長くなったので、前半はここまでにします。
後半では、介護のサブスクである小規模多機能ホーム「ひなの家 押野」と、医療依存度が高い人向けの施設、住宅型有料老人ホーム「ひなの家ナーシング金沢末町」の見学について書きます。