この連載では、ケアマネジャーである筆者が、介護に関する知識や情報、親の介護を少しでもラクにするためのヒントをわかりやすくご紹介します。
Q:認知症の母が要介護5と認定されました。
現在は介護老人保健施設に入所中ですが、退所後はわたしが自宅で介護をしたいと考えています。
今後の見通しを立てるためにも、要介護5の状態や介護保険で受けられるサービスについて詳しく知りたいです。
A:要介護5は、要介護認定の7段階の中で最も重い状態です。
生活全般に全面的な介護が必要で、介護なしでは日常生活を営むことがほとんど不可能です。
専門的な介護を行う場面も増えるため、家族にかかる介護の負担が大きくなります。
今回は、要介護5の状態と受けられるサービスについてご紹介します。
1.要介護5の状態
要介護5は、食事や入浴、排泄といった日常生活のほぼ全ての場面で介護が必要な状態です。
理解力や思考力の全般的な低下も見られ、意思の伝達が難しい場合もあります。
立ち上がって歩くことが難しく、1日のほとんどをベッド上で過ごす人も少なくありません。
寝たきりの状態が続くと、褥瘡(床ずれ)のリスクが高まるため、定期的な体位変換などの予防ケアが必要になります。また、口から食べる機能が低下すると、流動食の準備や経管栄養(胃ろう)の管理といった特別な対応も必要です。
このように、要介護5の介護には専門的な知識と技術が求められるため、家族の肉体的・精神的な負担は非常に大きなものとなります。

2.要介護4との違い
要介護4と要介護5の大きな違いは、介護の必要度の高さです。要介護5は要介護4よりもさらに重度で、より多くの介護を必要とします。
要介護4も寝たきりに近い状態ですが、一部の動作は自分で行えます。一方、要介護5は日常生活のほぼ全ての場面で介護が必要な状態です。
また、介護にかかる時間の目安である「要介護認定等基準時間」※1を見ると、要介護4は90分以上110分未満であるのに対し、要介護5は110分以上とされています。
このことからも、要介護5の方が介護により多くの時間を必要とすることがわかります。
※1:認定基準時間とは「その人にかかる介護の手間」を時間に換算して評価したもの
3.要介護5の支給限度額
介護保険で在宅サービスを利用する場合の支給限度額(区分支給限度額)は、介護度に応じて設定されています。
支給限度額内であれば、利用した介護サービスの費用は、利用者の所得に応じて1〜3割の自己負担だけで済ませることができます。
以下は、要介護5の1ヵ月あたりの支給限度額です。
◾️要介護5の方の区分支給限度額
区分支給限度額 | 自己負担1割の方 | 自己負担2割の方 | 自己負担3割の方 | |
---|---|---|---|---|
要介護5 | 36万2,170円 | 3万6,217円 | 7万2,434円 | 10万8,651円 |
(1単位=10円として計算)
参考:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
要介護5の区分支給限度額は「1ヵ月あたり36万2170円」です。
ただし、区分支給限度額を超えてサービスを利用した場合、超過分は全額自己負担(10割負担)となるため注意が必要です。
担当のケアマネジャーとよく相談して、支給限度額内におさまるようにサービスの利用を調整することをおすすめします。
4.要介護5が受けられるサービス
次に、要介護5で利用できる介護サービスを紹介します。
上述した区分支給限度額の範囲内であれば、1〜3割の自己負担で利用できます。
なお、要介護5では介護度を条件としたサービスの利用制限はありません。
【自宅で受けられるサービス】
・訪問介護(ホームヘルパー)
・訪問入浴介護
・訪問看護
・訪問リハビリテーション
・居宅療養管理指導
・夜間対応型訪問介護
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
・福祉用具貸与
・特定福祉用具販売
・住宅改修
【施設に通うサービス】
・通所介護(デイサービス)
・通所リハビリテーション(デイケア)
・地域密着型デイサービス
・療養デイサービス
・認知症デイサービス
【施設に宿泊するサービス】
・短期入所生活介護(ショートステイ)
・短期入所療養介護(医療型ショートステイ)
【通い・訪問・宿泊がセットになっているサービス】
・小規模多機能型居宅介護
・看護小規模多機能型居宅介護
・入所できる施設の種類
要介護5の方が入所できる施設の種類は、以下の通りです。
【介護保険施設】
・特別養護老人ホーム(特養)
・介護老人保健施設(老健)
・介護医療院
【特定施設入居者生活介護】
・介護付き有料老人ホーム
・住宅型有料老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅(介護型)
・ケアハウス(介護型)
【地域密着型】
・認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)
・地域密着型特別養護老人ホーム
(詳しくは→ 介護保険で受けられるサービスの種類は?)
5.要介護5で一人暮らしや在宅介護は可能?
要介護5での一人暮らしは、かなり難しいのが実情です。
寝たきりの状態では、何かトラブルがあった際に、自分で家族や知人に連絡することができません。そのため、要介護5になると、介護施設へ移って介護を受ける方が多くなります。
また、家族による在宅介護は、適切な準備とサポート体制があれば可能です。実際、複数の介護サービスを利用しながら在宅介護を続ける方も多くいます。
しかし、昼夜問わず介護が必要な状態であるため、ご家族にとって負担が大きいことは避けられません。

とくに、たん吸引や経管栄養の管理など日常的に医療的ケアが必要となるケースでは、介護者の負担が大きくなるため、在宅での介護がより困難になってきます。
このため、在宅介護が限界に達する前に、施設入居も選択肢の1つとして検討しておきましょう。
施設見学をしたり、事前に申込みをしておくだけでも、安心につながります。いざというときにすぐに入居できるとは限らないため、早めの準備をおすすめします。