「団地のふたり」著者:藤野千夜さんに聞く
ケア世代が“楽しく生きるため”ためのヒント vol.3

※このインタビューは全3回の連載です。第1回・第2回もぜひあわせてご覧ください。
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ー 第三回:『団地のふたり』のようなアラフィフ世代の暮らし方 ー

藤野千夜さんの話題作『団地のふたり』は、なっちゃんとノエチという中年女性たちの友情が描かれ、主に同世代の女性たちから共感を持って受けとめられた。

藤野千夜(ふじの・ちや)さんプロフィール:1962(昭和37)年、福岡県生れ。大学卒業後、出版社にて漫画編集を経て、作家デビュー。2000年「夏の約束」で芥川賞を受賞。主な著書に『少年と少女のポルカ』『ルート225』『時穴みみか』などがある。近年、『じい散歩』『団地のふたり』など、50代以降を扱った話題作が続いている。

作品中に、いつも仲良しのふたりが喧嘩をする場面がある。
なっちゃんが自分から行きたいと言いだした絵画展に寝坊して行けなかったり、出かけてからも、車が苦手なので、たびたび停めたりして、振り回されたノエチはイライラしてしまう。

「なっちゃんって、ずっと勝手だよね」ときついことを言い、なっちゃんも売り言葉に買い言葉で「そうだねえ」などと言ってしまい、数日間、二人は口をきかなくなるのだ。
読者としても「ちょっとあのなっちゃんはひどい」なんて思ったし、ドラマの放送時にはSNSで「あのなっちゃんは好きじゃない」などという声も上がっていた。

藤野さんは、「ああいうなっちゃんが嫌だと言われたら仕方がないけれど」としながら、「考えたら、自分だって嫌なところとかどうしようもないところってあると思うんです」と話す。

「介護でも、子育てでもきっとそうだと思うのですが、自分のスピードと違う人がいるとついイライラしたり、悪い言い方ですが相手を足でまといと感じたりするかもしれません。
でも、自分だってできないこともあるし、できなくなる可能性だってある。そう考えたら、その人を待つことくらいはできますよね」

人に迷惑をかけるのがとてもしんどい世の中だし、自分の時間を削りたくないという思い、損したくないと思ってしまうことも多々ある。
でも、当たり前に「お互い様」ができればもっと気持ちは楽になるのかもしれない。

「私は、母と障がいのある兄を連れてスーパーに行くことがあるのですが、母は年老いているし、兄は外に出ると何もできなくなってしまうんですね。ふたりとも何もできないから、私は両手に荷物を持って、エレベーターのボタンを押しておくこともできない。
それで何度も乗り損なったりして困るんですけど、そういう時、見知らぬ方がボタンを押しておいてくださったりします。年配の女性が多いんですけど、大変ねっていう感じでちょっと笑いかけてくれたりして。
きっと、今介護中とかかつてしていた方なのだろうと思うのですが、すごく救いだなって思います。にっこりしてボタン押してくださるだけで、すごく気持ちが楽になります」

喧嘩の後、なっちゃんとノエチはなんとなく仲直りする。そのきっかけになったのは、幼い頃に亡くなったもう一人の幼馴染、空ちゃんの存在だ。
ノエチは、わがままな子がやってきて、ブランコを譲れと言われたりした時の空ちゃんを、こう回想する。

「空ちゃんはやさしいから、そういうとき、いいよって言うんですよ。自分が損しそうなことでも、いいよって」

空ちゃんのようにはなかなかなれないかもしれないけれど、そうできたらいいな、と思う。

インタビューした「ルポーゼすぎ」の店内。『団地のふたり』でも描かれたように、サービスデーなどもあるそうだ。「まぼろしのカレーライスがあって、私もまだ食べたことがないの」(藤野さん)

「老い」について、どう考えているかも聞いてみた。
すると、親友でマネージャーのIさんと出かけた時のときのことをユーモアたっぷりに教えてくれた。(お二人の掛け合いをお見せできないのが残念!)

「イラストレーターの友人の家に遊びに行った時、色々いただいたりして荷物が多かったこともあって、Iさんがちょっとした段差のところで転んだんです。怪我はしなかったのですが、結構派手に転んでしまって。
それからというもの、私たちの間で、歩いている時に『段差あります』と注意喚起するのが流行してしまって(笑)。本当に老人っぽくて笑ってしまいました」

「段差あります」はおふたりの間で、その年の流行語大賞だったそう。そうして老いを冗談にしてしまうのは、愉快な乗り越え方かもしれない。

「旧友は、若い人に優先席を譲られた時、『こういうことは老人力がついたと笑わなきゃいけない』と言っていました。
いちいち深刻に思っても仕方ないから、『老人力がついてきましたな』っていうのは、美術家で作家の赤瀬川原平さんの発案でしたけど、今この年になって、あらためていい言葉だなと思います。
老いには徐々に慣れていくしかない。それで、ちょこちょこ老人になっておいて、世話してくれる人にはやってもらったりすればいいし、変にあらがわなくていいのかな、と思います」

今まではお年寄りや子どもを助ける側で、できない人にイライラする側だったかもしれないけれど、年齢を重ねればできなくなることがあって、人に迷惑をかけることも増えていくのだろう。
けれど、元気な若者でいることに固執することはなく、少しずつ補い合ってゆるしあっていけたら、それでいい気がする。なっちゃんとノエチが時々怒ったり、喧嘩しながら仲よくやっていくように。

そう思ったら、これから歳をとって生きていくのも怖くはないような気がしてきた。

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藤野千夜さんの書籍をご紹介

記事の中にでてきた、藤野さんの書籍を
オヤトリドリ編集部からあらためてご紹介!

団地のふたり
団地で育ち、保育園からの幼なじみのふたり。
中年を迎えた今も続く、ささやかな日常の物語。

じい散歩

散歩好きの新平と、浮気を疑う妻、問題だらけの子どもたち。
一筋縄ではいかない家族の日常が続いていく。
老いと家族のかたちを描く心あたたまる現代家族小説。


編集ども集まれ!
漫画編集部で過ごした日々と、作家としての今。
藤野千夜さん自身の歩みを重ねて描く、自伝的小説。


 『団地メシ!
懐かしい団地を歩きながら、世代の違うふたりが向き合う時間。
団地の日常やおいしいごはんが、人生の温度をやさしく伝える物語。