この連載では、さまざまな状況で介護を担っている方を取材し、
「介護をラクにする工夫」「大変なこと」「1日のスケジュール」などについて伺い、ご紹介しています。
今回は、4歳の息子さんを持つTさん(35歳)が直面している実父の介護と子育て、いわゆるダブルケアについてお話を伺いました。少子高齢化、晩産化などもあって、まだ手がかかる幼児を抱えて介護も担うダブルケアは、今後さらに増えると言われています。
決して他人事ではないダブルケアについて、Tさんのお話を参考にしながら、一緒に考えてみませんか?
子育てと実父の介護「ダブルケア+正社員(時短)勤務」の日々を振り返って
Tさんご家族のプロフィール
夫(38歳、運送業)、長男(4歳・保育園)と東京に隣接する千葉県在住。
夫の両親は同じく千葉県在住、60代後半で元気な現役世代。
Tさん(35歳)は化粧品製造会社の研究開発職で時短を使って復職したが、父の通い介護に時間がとられ、退職。現在はパートでクリニック受付の仕事をしている。
なお、実父は74歳、要介護1だが、次の認定では要介護2になると思われる。
・同世代と共有できないダブルケアの悩み
Tさんが実父の介護を始めたのが約2年前。子どもは2歳で保育園、Tさんは時短を使って復職して半年あまりのときでした。
ダブルケアの大変さについて聞いた時、Tさんは「体力とか時間のなさとか色々ありますが、もっとも辛かったのはどこにも誰にも相談できなかったこと」と答えました。
Tさんは30代、同年代であるママ友は介護どころか、子どもを実家に預けてショッピングに行ったり、時には飲みに行ったりしている。元気な親世代に助けられ、実家に帰れば上げ膳据え膳で「リフレッシュしてきたー!」みたいな話ばかり。
親が遠方にいるとか、亡くなっているという人はいても、親の介護をしながら、育児と仕事もしている人は身近にはいませんでした。
育児と仕事の話題なら「それって、あるある!」「わかるー!」と盛り上がるし、共働きママ同士で愚痴を言い合い、時には助け合い、夫に関する文句のひとつも言い合えるけれど「介護の話って何か暗くて重い感じだし、経験のない人に話しても相手も返答に困っている様子が伺えて、なんとなく隠すというか、言えなくなってしまった」とTさん。
「介護はひとりで抱えてはいけないとよく言われますが、ダブルケアになると打ち明けて気持ちを吐き出せる相手がなかなかいないのです。
なぜなら、周囲がまだ介護世代ではないから。介護自体が『まだまだ先の話』で実感がないのです」
「うちは夫が長距離ドライバー、心配事を増やして事故でもしたらと思うと介護の現実的で重い話はしづらかった。自治体の相談窓口も介護なら介護、育児なら育児相談と分かれている。
わたしの抱えているのは、育児だけでも介護だけでもなくて、みんなまとめてのしかかってきている悩みなので、いったいどこに相談していいのかもわからなくて。気づいたら、本当にひとりですべてを背負っていた感じです」
そんなTさんのスケジュールですが、時短で正社員勤務時代と、現在のパート勤務両方を見てみましょう。
・ダブルケア「フルタイム勤務時代と今」の1日スケジュール
時間 | 正社員勤務(時短)時代 | 5:30 |
---|---|---|
5:30 | 起床・身支度 昨晩の家事の残り (洗濯物片付け・ざっと掃除など) 朝食準備 夕飯下ごしらえ | |
6:30 | 起床・身支度 朝食準備 | |
7:00 | 子ども朝ごはん (自分は食べないか、パンをかじる程度) 子どもの支度 | 子どもと一緒に朝ごはん 子どもの支度 昨晩の残りの家事や洗濯など |
8:00 | 保育園へ (パパが休みの時はパパ) 通勤 | 保育園へ 通勤 |
8:30 | 仕事開始 | |
9:00 | 仕事開始 | |
12:00 | 銀行などの用事 昼ごはんぬきで仕事 | |
13:00 | 仕事 | |
14:00 | 退勤 カフェでサンドイッチなど軽めに食べてひと息つく | |
15:30 | 退勤 スーパーへ | スーパーなどにより実家へ 簡単な家事 父の夕飯準備 保育園お迎え ※月・水・金は訪問介護がある。水曜は実家へ行かずにお迎えした子どもと過ごす。 |
16:15 | 保育園お迎え | |
17:30 | 実家へ 父の夕飯 子どもの相手をしながら洗濯や家事など | 帰宅 夕飯準備 子どもと少し遊ぶ 子どもとお風呂 |
19:00 | 自宅へ 帰宅後、お風呂準備 子どもとお風呂(超短時間) | 夕飯 (夫がいる時は晩酌してのんびり過ごす) 残っている家事 子どもの明日の準備 子ども寝かしつけ(20:30) |
20:00 | 夕飯支度 夕飯 洗濯物など家事 子どもの明日の準備 | 父親に電話で確認 ※5分程度でおやすみと言って終わりだが一応、確認のため。 夫の夕飯用意 夫が帰宅するまで自分時間 夫と夕飯 ざっと片付け 23時には就寝 |
21:00 | 子どもの寝かしつけ 夫の夕飯用意 父親に電話で確認 メールチェック等、会社でできなかった仕事の雑用を処理 | |
22:00 | 夫と夕飯 夕飯の片付けや雑用 就寝はだいたい23時半すぎだが、夫を待たずに寝てしまうことも |
ダブルケアについて教えてください!
Tさんが、3つの質問に答えてくださいました。
1)ダブルケアで大変なことは?
当時2歳だった息子を連れて仕事帰りに実家に寄っていたのですが、子どもの相手をしながらなので無意識に「小さい子どもと大きな子ども」の世話をしているような態度だったのかもしれません。
よく父親から「俺まで赤ちゃん扱いする気か!」と怒鳴られました。
母が亡くなってからも元気だった父が、転んで軽い捻挫をした時に診て下さった先生から「目が見えづらいのでは」と指摘され、眼科に行ったら緑内障とわかったのですが、本人は老眼くらいにしか思っていたなかったのでしょう、車の運転もしていたのであわてて無理やり免許を返納させました。
その辺りから父の性格も変わってしまいました。
まだ感染症のこともあった時期だったので、外出もしなくなり、足腰も弱って、わたし以外、親族でさえ家に入れると「ろくなことがない」とわけのわからない理由で追い返すので、とにかくわたしが世話をしなくてはらなかった。
介護のことなんて考えたこともなかったし、いろいろな制度や支援があることも、認知症すら言葉だけしか知らなかった。
そして、とつぜん始まってしまった父の世話に追われ、支援制度を調べる時間さえ作れなかったのです。
通勤時間はメールチェックや仕事の確認をしなくちゃならない。
時短で終わらない仕事を持ち帰ることもあったし、子どもはしょっちゅう熱を出すし、予防接種だ何だと予定が入るし、もう自分が何をしているのかわからないくらい忙しくて、正直、その頃のことはあまり記憶にさえありません。
それを続けた1年間がいちばん大変でした。
2)ダブルケアをラクにするために行っていること・行ったことは?
・優先順位をつける
・使える支援はフルに使う
・とにかく話せる相手を見つける
実際に行ったこと
・どんどん成長する子育てが最優先ときっぱりと心に決めた
・退職し、8時半から14時までのパート勤務に
・地域包括支援センターで実父の介護認定等の相談をし、訪問介護をスタート
・訪問介護は週3日、そのうちの1日は「子どもといっぱい遊ぶデー」にあてている
・夫や友人にも介護の大変さを愚痴るようになった
育児・仕事・介護、すべてを完全にはこなせるわけがないので、まず優先順位をつけました。
仕事は大好きでしたが、私の代わりはいくらでもいる、でも息子にとって母親はわたしだけだし、父にとって娘はわたしひとり。そう考えて、退職を決断しました。
これでまず、大幅に時間的な余裕ができました。
父の介護については支援を利用。
訪問介護を3日利用し、そのうち1日は実家へは行かず、保育園の帰り道に公園に寄ったり、子どもと図書館に行ったり、この日は子どもと遊ぶことをメインに過ごしています。
ダブルケアは、どちらかに比重がかかると片方に申し訳ない気がするのです。
わたしの場合、ママと遊びたい盛りの子連れで父にかかりきり、子どもに対する負い目が強かったので、今は「ママと遊ぶ日」を作ったことで、気分的にだいぶラクになりましたね。
退職を決断した時に、夫にはじめて色々と話しました。夫は夫でわたしが何も話してくれないと逆に心配していたそうです。
夫は介護経験者の上司に相談し、具体的なアドバイスを聞いてやるべきことを考えてくれました。退職前の引き継ぎ期間でわたしはまだ出勤していたのですが、夫は平日休みがあるので、役所関連の手続きなど代わりに行ってくれたのは本当に助かりました。
夫から義父母にも話をしてくれたようで、特にお義母さんは「かわいそうに、辛かったでしょう」と言ってくれて……。
それからは何かと気にかけてくれるし、前は義父母に子どもを預けるのはためらっていたのですが、今はありがたく助けてもらっています。
自分から心を開けば、手をさしのべてくれる人はいっぱいいる、心を閉じてしまったら助けてあげたくても助けてあげられないと、義母から言われた言葉を胸に刻んで過ごしています。
3)介護の本音とこれからの思い
慢性的な疲労って慣れてしまうところが怖い点です。もはや自分が疲れているのかもわからなくなってくる。相談するどころか「話す気力」もなくなってくる。
それが介護の沼にはまってしまう悪い例だと思いますね。
実はわたし、退職を決意したきっかけは円形脱毛症になったことです。
その時に、さすがにハッとして、きちんとまず夫に話そう、この状況を何とかしようと、ようやく自ら改善策を考える行動を起こせました。
今はランチで楽しい話をして気分転換することもあれば、親しい友人に介護と子育ての両立が大変なことを愚痴ることもあります。
友人にはわからないことだらけだから、アドバイスがあるわけではないけれど、以前のように(どうせわかってもらえない)(こんな話は聞きたくないだろう)と勝手に決めつけることもしなくなりました。
会社をやめたことは今でも本当に悔しく思うことはあります。
会社は女性が多く、育児支援は手厚かったのですが、中小企業ということもあって介護休暇の制度を使用している人はほとんどいなかったし、その制度があることも知らない人の方が多かったと思います。
ダブルケアの場合、すでに育児で時短を使っていると、それ以上何かを会社に求めるのは難しい面があります。
主に介護を担っている人以外、わたしの場合なら夫ですが、夫がもし勤務先で介護休暇や時短を取得できたら、大きな助けになるでしょう。
でも、制度はあっても、誰でも申請しやすい雰囲気じたいが会社にないと、結局は「使えない」ことになってしまう。この辺りは会社というよりも、社会全体の認識も変化してくといいなぁと思っています。
優先順位をつけなければやっていけないダブルケアではなく、育児も介護も仕事も、周囲の助けを借りながら、悔いのない自分らしいライフスタイルを確立できる、そんな環境が整うことを期待しています。
誰かひとりに負担のかからない社会になるように
ダブルケアは、子育てと介護だけでなくて、両親ふたりともの介護を行うとか、持病のある夫をケアしながら、子育てと親の介護をするケースもあります。
介護は何も50代60代の問題ではなく、今や30〜40代にとっても身近にあることなのです。
最後に、SNS等で同じ境遇の人ともつながれるし、ダブルケアをしている人たちのコミュニティなどがあることも併せてお伝えしておきます。
介護だけでなく気軽に話ができたり相談できたりする場所が増え、自治体や企業の支援も充実し、それぞれの負担が少しでも軽くなるような社会にしていきたいですね。