認知症ってなんだろう? vol.5
– 認知症の方との接し方① –

認知症って一体どういうことなんだろうか?今回このようなテーマでお送りする連載記事を、医療に関わり、その後、介護付き有料老人ホームの看護職員として長年務められ、多くの認知の入居者に携わり、自らも認知症ケアについて学ばれている、松崎さんに綴っていただいてます。


認知症の周辺症状はいろいろあります。
一番困ってしまうのは暴言、暴力ではないでしょうか。いつも怒っている、急に怒り出すなど・・・
介護しているご家族、またヘルパーさんはヘトヘトになってしまいます。そうなるとご本人に人が寄り付かないようになり、生活が荒れてきます。

さて今回は私が経験した「暴言暴力」の方、そして接し方について書きます。

・周辺症状

vol.1に書かせて頂きました。周辺症状とはBPSDとよく言われていますが、
日本語で言うと「認知症の行動、心理症状」で陽性症状と陰性症状に分かれます。

・もしかしたらその周辺症状の原因は薬?

暴れたり、叩いたり、暴言だったり・・・
もしかしたら今、内服している薬を始めてからではないでしょうか?
抗認知症薬は陽性症状の強い方には使いません。意外と知らない医師も多いですし、また増量規定というのがあってこのような症状が出ていても2週間毎に増量していく医師も多いのが現実です。
内服を止めたら驚くくらいに症状が安定される方もいます。

振り返ってみましょう。もしかしたら・・・薬?
そう思ったら直ぐに主治医に報告してみましょう。

・陽性症状の強い、前頭側頭葉型認知症(ピック病)

「前頭側頭葉型認知症」とは脳の前頭側頭葉が著しく委縮する変性症です。
前頭葉は理性、意欲などをつかさどるため委縮することにより、理性的、社会的行動が失われてしまい、人格的変化や行動異常も出てきます。
「脱抑制」と言われるコントロールがきかなくなる特徴もあります。

・「暴言暴力」「易怒(いど)怒り易い」の対応

私は施設で看護職員として18年勤務していました。
精神科から症状が落ち着いてこられたからと施設へ入居された方がいらっしゃいました。
車椅子に乗って入居されましたが、この方がまさしく「暴言暴力」症状が強い方でした。
目つきはギラギラしていて、着替え、排泄介助、入浴を全て嫌がられヘルパーさんたちは引搔かれ傷だらけになっていました。

実はこの方とは入院、入居の5年前に私の知り合いのご紹介でお会いしたことのある方でした。
5年前はご家族の病気のご相談でお会いしました。物静かで威厳すら感じる紳士的な方でした。
その後、奥様に先立たれうつ病から認知症になられ、ものとられ妄想、徘徊、それから徘徊中に他者と喧嘩になり傷だらけになったところを警察に保護され、精神科に保護入院となりました。ご家族からご相談頂き私のいる施設へ入居されました。
まるで別人でした・・・どれだけつらい思いをされたのか・・・

まずはお薬を確認しました。
もしかしたらこの薬が怒りっぽくさせているのかもと疑い主治医の先生に相談しながら中止をしました。
薬の副作用と長い入院生活で身体もガチガチでしたが少し症状はよくなりました。
でもヘルパーさんを引搔いたりされていました。この時には引掛かれないように、割烹着やガーデニング用の長い手袋をつけて皆さんケアに入っていました。

ヘルパーさんと一緒に排泄介助(オムツ交換)入った時に、気付きました。
ヘルパーさんは手を出されるのが怖いから、目も合わされません、さっさと交換して終わらせたい・・・気持ちはよくわかります。本当にわかります。でも本人はどうなのでしょう。

排泄は最後の砦といいます、人の世話になんかなりたくないと思いますよね。恥ずかしいし。
それに、声掛けられても聞こえないと何されるかもわからない。
顔を見て、声をかけながら、返事をまち、排泄介助をしました。安心された様子でした。

「自分で立って歩きたいんだよ」と言われ、トイレまで誘導し排泄介助をし、徐々に歩く訓練をしました。部屋の中、廊下まで、食堂までと手引き歩行ではありましたが、嬉しそう歩かれていました。

その後は、話もできるようになられ面会が増えましたし、割烹着、ガーデニング手袋武装もなくなりました。
笑って一緒に写真撮ってくださったことも忘れませんし、蕎麦も食べにヘルパーさんと出かけられました。この間主治医といろいろ考えながら内服の調整もしました。

・まとめ

自分がされて嫌な事はしないことが鉄則です。対話が大事ですよね。
ちゃんと顔をみて、聞こえる声で話し返事を待つ。
そしてご本人の気持ちがわかったらそれに添っていく。


それから座れる方であればトイレに座って頂いて排泄を促してみてください。排泄は尊厳ですから。
それに習慣をつければ便秘にもなりにくいですよ。